監督の独り言

【号外2】祝☆リアル甲子園 準V ~黄金世代を擁し頂点へ挑んだ智辯学園~

監督の独り言

第103回全国高校野球選手権にて、智辯学園は小坂監督が選手だった1995年第77回大会のベスト4を超えて夏キャリアハイとなる準優勝に輝きました。

惜しくも5年前のセンバツV以来となる優勝こそなりませんでしたが、日本一を目指し3年間戦ってきた黄金世代・3年生の代にスポットを当てて、彼らのここに至る軌跡を振り返り、今大会決勝までの各試合結果を振り返りたいと思います。

※ 準々決勝の明徳義塾戦までの内容は8月27日に公開済でした。そこへ準決勝・決勝記事を書き加えて8月29日に更新しました。

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2019年・1年生時  夏の甲子園・2回戦 八戸学院光星戦

今大会に出場する主力選手は1年生時からベンチ入りし出場・活躍してきました。

2019年夏の甲子園・2回戦で、武岡君(U-18代表・現ヤクルト)率いる八戸学院光星との壮絶な激闘を繰り広げた試合にも出場していました。小畠君は1年生ながら背番号10を付けて先発マウンドに登り、西村君も6回にリードを広げられ尚も1死2・3塁の場面から三番手として登板し、ピンチを凌いで試合最後まで力投しました。そして、小坂監督曰く「入部直後のスイング・フリーバッティングの印象は、現巨人の岡本和真以上のポテンシャルを感じる」という前川君は、坂下主将(U-18代表・現近畿大学)の後ろで構える1年生四番として活躍しました。

2019年秋季以降の新チーム ・1年生時

そして、3年生が引退し新チームとなったその年の秋季大会では、西村君がエースナンバーを背負い、前川君はファーストで3番、山下君はサードで5番を付けて主力に定着。更に小畠君・岡島君・植垣君・垪和君らもベンチ入りし、登録メンバーの半数が1年生でした。

このメンバーにて県大会を制し、秋季近畿地区大会では智辯和歌山との乱打戦を制してベスト4入り、センバツ出場を決めました。しかし、残念ながら2020センバツは中止となってしまいました。

2020年・2年生時 甲子園招待試合 中京大中京戦

そして更に夏大会までも中止となりました。そんな悲劇の2020年夏に唯一球児達を救ったのは、センバツ出場校を甲子園へ招待し行われた1試合限定の特別交流試合です。(今年が智辯黄金世代ならば、天理はこの年が黄金世代でした。秋季近畿地区大会は報徳学園・履正社に続いて大阪桐蔭にも勝利し優勝、明治神宮大会でも中京大中京と激戦を演じてベスト4。下林主将が引っ張る強力打線に、エース庭野君と台頭著しい桐蔭撃破の立役者・達君ら投手陣は、優勝候補に呼ぶに相応しい素晴らしいチームでした。)

その甲子園招待交流試合(センバツ代替試合)での対中京大中京戦。後に、中日ドラゴンズからドラ1指名を受けることになる150km/h右腕・髙橋(宏)君との投げ合いとなった2年生エース西村君は、この試合でターニングポイントを迎えます。自らのバットで3点差を追いついた直後の4裏から見せた気迫を全面に出した鬼気迫る投球。「おら゛ーっ!」と雄たけびを上げながらのリリースで、決して大きくはない身体からは想像できないほどの威圧感をマウンドから放っていました。私はそれを“西村君の覚醒”と勝手に名付けました。試合こそ10回タイブレークで痛打される事もなく不運なサヨナラ負けとなってしまいましたが、高橋君との球数150球競演は強烈なインパクトを残しました。

2020年秋季以降の新チーム ・2年生時

秋季大会(奈良県大会→近畿地区大会)

その後、彼らが最上級生となった新チームで挑んだ秋季大会。達君・瀬君らを擁する天理に県決勝で敗れはしましたが、輝きを放ったのは近畿地区大会。龍谷大平安・市立和歌山ら強豪校を破って勝ち進み、決勝は全試合コールド勝利という圧巻の勝ち上がりを見せていた大阪桐蔭との試合。

打線はその結果から分かる通りの破壊力で、更に投手陣も松浦君・関戸君・竹中君らエース格が複数揃っています。そんな大阪桐蔭に対して、三垣君の2点タイムリー2ベースで先制すると、前川君・山下君のアベック弾が飛び出し、更に三垣君・山下君のタイムリーで突き放し。投げては西村君が連打を許さない要所を締めるピッチングにて完投。投打共に完勝の内容にて近畿を制しました。

西村君が招待交流試合で覚醒したのならば、山下主将はこの近畿地区大会で覚醒したと言えるでしょう。打率.666の2ホーマー、近畿の強豪校相手にこの成績は主将という立場のみならず、四番としても頼れます。

センバツ甲子園

そして今年のセンバツです。初戦で大阪桐蔭との再戦になりました。近畿大会のリベンジに燃える大阪桐蔭に対し、またしても智辯は勝利。その試合詳細については別ページの選抜観戦記(市和歌山vs県岐阜商・智辯学園vs大阪桐蔭・広島新庄vs上田西)をご覧下さい。

その後、2回戦では小畠君の完投で広島新庄に勝利、続く準々決勝で明豊に敗れました。相手打線には徹底した西村君対策が講じられており、打撃ではあと1本がなかなか出ない展開。終盤には追い上げムードが漂うも相手のファインプレーにも阻まれ惜しくもベスト8となりました。

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2021年・3年生

春季大会(奈良県大会→近畿地区大会)

センバツ直後の春季大会では天理にリベンジし県優勝。しかも、西村君をケガで欠き、小畠君の登板も僅か。2年生両腕の藤本君と大坪君の2枚でほとんどを投げ、夏へ向けての大きな収穫となりました。

近畿地区大会でも勝ち進みます。初戦は秋季と同じ相手となった滋賀学園に前川君の2ランなど上位から下位までタイムリーが飛び出しコールド勝利、センバツ以来の登板となった西村君も5回を零封と復帰を飾りました。続く準決・京都国際戦では県を制した藤本君・大坪君リレーで勝利。

そして決勝では、現チーム3度目の対決となる大阪桐蔭戦。この大会では背番号1を付けた小畠君が先発。強力桐蔭打線を9回を2失点に抑える好投も、味方打線の援護が得られずに延長10回にサヨナラ弾を浴びて力尽きてしまいました。2年川原君と当時エースの竹中君の桐蔭リレーを捉える事が出来ませんでしたが、前川君はタイムリーを含むマルチで一人気を吐きました。

黄金世代にて戦う現チームのここまでの戦績は、
秋季近畿地区:優勝 センバツ:ベスト8 春季近畿地区:準V
最後の夏は、もう頂点しかありません。

夏の甲子園・奈良県予選

県予選ではセンバツベスト4・天理との対決を期待しましたが、古豪・高田商業に準決で敗れました。智辯は決勝でその高田商業に勝利し春夏連続の甲子園出場を決めました。これまで基本的にはクリーンアップに座っていた前川君ですが、打球が上がらないという打撃不振により大会後半の3試合は先頭打者としての起用でした。その鋭い打球で打線としては機能していましたが、甲子園へ向けてそしてスラッガーとしてはやや不安が残りました。

2021 夏の甲子園

1回戦 倉敷商業戦

黄金世代最後の夏。スターティングオーダーはいつもの面々。

一番・高いミート力と長打力まで併せ持つ岡島君、二番・県予選で絶好調だった谷口君、三番・クリーンアップに戻ったスラッガー前川君、不動の四番・山下主将、五番・長打も打てる捕手植垣君、六番・チャンスに強い三垣君、七番・小技から正攻法までどの打順でも適応できる森田君、八番・右打ちが上手い大型セカンドは竹村君、そして九番は先発マウンドに登るエース西村君。

4回表の山下主将の先制タイムリー2ベースから始まり、4。5回に植垣君・三垣君の連続タイムリーや2スクイズなどで6得点と有利に試合を進めました。

しかし7回、植垣君の第4打席。無視1塁で送りバントを試みたところ、失投によるボールは右腕をかすめて顔に当たりました。臨時代走が送られ、再び試合へ植垣君が戻る事はありませんでした。その後、診察の結果は上あご骨にひびが入っている事が判明しました。全国制覇へ向けて、扇の要であり打っては好打者である彼を2回戦以降欠くことは大きな痛手になってしまうと思いました。

その後は森田君のタイムリーと西村君のスクイズにて3点を加え、9裏は2年生左腕・藤本君の経験を積む場としてマウンドを譲った西村君。最後は小畠君が締めました。

守備や走塁でややミスはあったものの、概ね夏初戦は上出来のスタートを切ったと思います。倉敷商打線も最後は2年投手とは言え、春季近畿地区では大車輪の活躍だった藤本君を打ち崩した集中力は素晴らしかったです。公立校の意地を見せました。

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2回戦 横浜戦

1回戦で好投手・花田君や秋山君らを擁する広島新庄を打ちあぐね、9割9分負け試合を9裏2死から1年生・緒方君が劇的サヨナラ弾でチームを救った横浜。覇権奪還を目標に先を見据えた若いチームは、エース杉山君やショートでリードオフマンを務める緒方君らは1年生。初戦で勢い付き、更に杉山君の温存に成功しての勝ち上がりは要注意です。

驚いたのは、植垣君がまさかのスタメン出場。おそらく無理を押しての出場でしょう、そのガッツは称えたいですが、悪化しないようにと願います。また、この試合で前川君を県予選同様に打順一番に戻した小坂監督。これが見事にハマるとは試合開始時には思いもしませんでした。

3イニング連続で先頭出塁するも得点できず。しかし西村君は気合の入ったピッチングで隙を見せません。

先制は4裏。1死から植垣君が粘って四球出塁。続く西村君は逆らわず三遊間を抜いてレフト前へ。そして竹村君もセンター前へ運んで満塁のチャンス。ここで迎えるは一番前川君。アウトコースやや高めのまっすぐを振り抜いてセンター方向へ大飛球。いつ振りだろうか、前川君のバットからこんな大放物線を見たのは。後進守備と大飛球とで横浜センター安達君はフェンス際で待ち構えている。

「落下点か!?」

そう思った時、安達君がジャンプし伸ばしたグローブの僅か上、打球はフェンス直撃。普通なら走者一掃の長打になりますが、記した通りに犠飛と見て取れる追い方だったので珍しい”2点タイムリーシングルヒット”となりました。

この打席のこの打球で、遂に前川君は復調、いや覚醒したのです。

6裏、先頭竹村君が四球で出塁。打順戻って一番前川君は、先程の手応え・感覚が残っていたのでしょう。相手投手は二番手に代わっていたっものの、先程と同じようなややアウトコース高めの速球を振り抜いてバックスクリーン横のカメラマン席に突き刺しました。

会心の当たりに右手を突き上げて一塁をまわる前川君。これでまた一つ優勝に近付いたと思いました。

乗りに乗った前川君は誰も止められません。直後、7表の守備。2死1・2塁で横浜・安達君はレフト前へ運び2塁ランナーは迷わず3塁を蹴ってホームへ。捕球した前川君はバックホーム、ワンバンでのストライク返球でホームアウト・チェンジ。少しでもズレていたらセーフのタイミングだっただけにこれ以上ないストライク返球でした。…しかし、コリジョン位置だった為、植垣君とランナーが衝突するのではとヒヤリとしましたが、うまく受け流しつつのタッチアウトはさすがの経験と技術だと思いました。

その裏の攻撃。森田君のヒットに続いて、植垣君もライト前ヒット。そこで横浜右翼手・岸本君がファンブル。それを見た植垣君は2塁進塁を狙ってヘッスラ。見ているこちらが恐怖を感じてしまいました。5点リードで7裏、つまりあと2イニング。そこまでしなくても…と思いましたが、やはり全国制覇を狙う扇の要は違いますね。出場している以上、あごが割れていようが妥協なき全力プレーをして勝利を目指すという事でしょう。あのシーンは見ていて心が震えました。

その後は、8表の無死1・2塁を最後の力を振り絞った西村君が抑えて、ここまでヒットが出ていなかった山下主将と三垣君のクリーンアップは8裏に素晴らしい当たりを見せて先発全員安打を達成。9回は小畠君できっちり締めました。

智辯の2019年秋季新チーム同様に、1・2年生が半数だった横浜。王座奪還・名門復活へ向けて今後が楽しみなチームでした。また、3年・金井君は初戦も含めて見ていて良いバッターだなぁと思っていたのですが、この日ラスト1イニングを登板。やはり野球センス溢れる選手は投手もこなせるのだなと思っていたら、実況が「この金井君は春まで背番号1を付けてましたが、肘の故障により打撃に専念しています」…えっ!?春までエース!?にも関わらずあの打撃センスでクリーンアップを打つ…、この先進む進路が気になりました。

3回戦 日本航空戦

ここまでの2試合は中盤に先制・追加点を奪い、終始有利に試合を進めてきましたが、3回戦では日本航空エース・ヴァデルナ君が立ちはだかりました。

この日の先発は小畠君。立上り先頭打者にヒットを許し、盗塁と進塁打で1死3塁。四番エドポロ君のサードゴロ間に生還し、大会3試合目で初めて先制を許しました。しかし、2回以降は素晴らしいピッチングで中盤までノーヒットピッチ。

一方、左打者が多い智辯打線は左腕のヴァデルナ君を前に凡打の山を築いてしまいます。アウトコースへのスライダーで三振か、インコースへのまっすぐで詰まらされ内野ゴロというパターンは、打順二巡目まで続きなかなか攻略の糸口が掴めません。

グランド整備を挟み試合は後半戦へ。6回は打順良く先頭からで、甲子園2試合でノーヒットの県予選優勝の貢献者・谷口君に代わって、この日一番ライトで今大会初先発はとなった右打者・垪和君が3度目の打席で捉えました。2ベースで出塁すると、続く岡島君も連打、3番前川はストレートの四球で無死満塁。しかし、チャンスに強い四番山下主将はここは併殺打に倒れて1点止まり。続く森田君のサードゴロは悪送球でセーフになり、その間に岡島君が還って1点リードとなりました。

ようやく逆転した後も小畠君は淡々と投げ込み2回以降のノーヒットピッチを継続。

7表、竹村君がヒットで出塁しボークで進塁後、垪和君が今度はタイムリーを放って1点追加。ここで球数120球を超えていたヴァデルナ君は降板。その後、二番手藤君は2死3塁で前川君と対する場面を渾身のまっすぐで見逃し三振。流れ的にも日本航空はギリギリのところで踏み止まりました。

しかし8表、打ちあぐねていたヴァデルナ君はベンチへ下がり、四巡目に入った打線。山下主将・森田君の連打やこの日もスタメンマスクを被っている植垣君の内野安打などで満塁のチャンスをつくりましたが、あと1本は出ずに無得点でした。

その裏、小畠君は初回以来となるヒットを許し、続く代打も初球打ちで無死1・2塁のピンチ。しかし、ここで一段ギアを上げた小畠君は注文通りのゲッツーと代打攻勢に出た日本航空打線を最後は高めの釣り玉となる渾身のストレートで空振り三振。雄叫びを残してベンチへ戻りました。

ピンチの後にはチャンス有り。9表、またしても垪和君はセンター前ヒットで先頭出塁の猛打賞。小坂監督采配は、横浜戦の前川君1番起用に続いてズバリです。その前川君、この日は三振と四球のみ。せっかく前試合で上げた復活の狼煙・掴んだ手応え、それをスラッガーは無駄にはしませんでした。前川君対策でマウンドに上がった左腕・小沢君を苦にせず、打った瞬間それとわかる浜風を切り裂く打球はライトスタンドへ。2試合連続弾となる2ランを放ちました。

こうなれば燃えるのは四番山下主将。初戦の先制点を生んだレフトフェンス直撃の大飛球に続いて、この日は2者連続アベック弾まであとボール1~2個分だったレフトフェンス直撃の打球を放ちました。狙っていたのでしょう、3塁ベースに辿り着いた直後に首をひねった姿は悔しさをにじませていました。その後、植垣君のタイムリーも飛び出し、6点リードで最後のマウンドにも上がった小畠君は三者凡退に打ち取り、被安打3の1失点で96球完投で試合を締めました。

好投手ヴァデルナ君には実質封じられましたが、パワーヒッター・エドポロ君らクリーンアップを無安打に封じた小畠君と、起用に応える猛打賞は全てポイントとなる3安打だった垪和君の活躍によりベスト8進出を果たしました。

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準々決勝 明徳義塾戦

準々決勝は策士馬淵監督の名門・明徳義塾。3回戦終了後、3塁側ベンチだった智辯は次戦でそこを使用する明徳と入れ替わり。その際、馬淵監督は小坂監督の元へ歩みより何やら長話をされていました。きっとこの準々決勝を見据えて探りを入れていたに違いありません。

強打の松商学園戦をクリーンアップの2発とエース代木君の3安打完封で勝利し、実現したこのカード。馬淵監督はどのような戦略で智辯を攻略してくるのかと思っていましたが、それは先発投手でした。

球数制限の事もあるでしょうが、それ以上に日本航空ヴァデルナ君をまったく打てなかった智辯打線を見て、エース代木君でなく2年生変則左腕の吉村君を抜擢したのでしょう。トルネードサイドスローは、ヴァデルナ君以上に外からのリリースポイントで投じられ、馬淵監督の思惑通りに智辯打線はそれに大苦戦します。

アウトコースの変化球は捨てていますので、どうしてもインコースのまっすぐに詰まらされます。打順一巡目は内野ゴロの山で三者凡退×3イニング。対して、この日先発のエース西村君も負けていません。やや制球に苦しむ感があるも気合の乗ったピッチングで序盤3回は無失点で切り抜けます。

試合が動いたのは4回。クリーンアップを迎えるこの回、慎重に入った西村君は四球を与えてしまいます。続く四番に馬淵監督はバントを指示。上手く転がすと捕球に行った西村君は足を滑らせ仰向けに転倒してしまい、無死1・2塁。ここでタイム。これまでの活躍・貢献度からすればここ3試合で打率2割はやや物足りない印象で、この日はスタメンを外れてしまった三垣君が、西村君の動揺を落ち着ける為にマウンドへ伝令に行きました。その後満塁となるも、最後は空振り三振に仕留めてスクイズによる1失点で凌ぎました。

その裏、打線は西村君を助けます。日本航空戦の活躍を受けてこの日も一番起用の垪和君が先頭四球で出塁。森田君が送って、前川君を迎えるも死球。1死1・2塁で四番主将の山下君。フルカウントから粘っての8球目、インコースからやや内に入ってしまったまっすぐを捉えてライト線へ。チーム初ヒットは即同点に追い付くタイムリー2ベースとなりました。

これで完全にエンジンがかかった西村君は、本来の姿を取り戻して明徳打線を沈黙させますが、打線もやはり吉村君を前になかなか突破口が見出せません。

6裏、山下君のタイムリー以来となるヒットを前川君は放ちましたがけん制死チェンジと流れになかなか乗れません。

しかし、その前川君はお返しと言わんばかりの好プレーを7表に見せます。四球とヒット、送りバントで2死2・3塁の場面でバッターは先頭米崎君。インコース高めのまっすぐを強引に引っ張った打球は浜風にも押されてレフトポール際へ伸びていきます。

「入ってしまうのか!?」

最悪は逆転3ラン、少なくとも長打で2点は失うと思われる打球を前川君はフェンスを恐れず突進し、目測ピッタリのフェンス際キャッチング。見た目以上に難しいと思われる捕球を涼しい顔でファインプレーを決めて、マウンドでしゃがみこんでいた西村君は「マジかっ!」と叫び喜んでいました。

その後も西村君と吉村君の投げ合いで試合は淡々と進みます。

そしてあっという間に迎えた9回。球数は100球を超えて疲れが見えてきた西村君を五番・代木君は見逃しません。この日は後輩にマウンドを託し、常にファーストから声をかけて吉村君を鼓舞してきた彼はエースのみならず好打者なのです。2ボールノーストライクからストライクを獲りにいった3球目ストレートを投手ならではの読み通りにフルスイング。センター方向へ伸びる打球は中堅手・森田君が追うも失速せずにバックスクリーンへ入りました。2試合連続となるホームランは最終回に決定的となる得点を生み、ベンチは大盛り上がり。バックスクリーンを厳しい表情で見つめるマウンドの西村君とは対照的に、代木君は雄たけびをあげて飛び跳ねながらベンチへ戻り、吉村君と力強く抱き合います。

決定的な一発を浴びた西村君は小畠君に後を託しましたが、連打に四球で1死満塁と言う大ピンチを迎えます。しかし、最後はホームゲッツーに仕留めて致命的となるこのイニングの2点目は与えませんでした。

最後に大きな流れを掴んだ明徳はあと3人で勝利、自身の一発で気持ちも乗っているであろう代木君が最後はマウンドにあがるだろうと思いましたが、馬淵監督は吉村君を続投させます。あくまで打たれていない吉村君で行き切るのが最も勝利に近いという選択だったのでしょう。

しかし球数は100球に近付き、打順は4巡目となる智辯打線は捉えます。先頭垪和君はレフト前へクリーンヒット。続く森田君はセンバツ1回戦の大阪桐蔭戦でも見せた華麗なるバスターを決めてセンター前へ運びます。無死1・2塁、ここで迎えるは前川君。最終回、少なくとも1点はマスト。ここでスラッガーにバントさせても山下君は歩かされて1死満塁となる。いくら好打者の岡島君とは言え、左で今日はまったく吉村君から打てていません。ならば前川君・山下君で勝負、といったところでしょう。

しかし、思わぬ展開に。インコースの球が甘く入り、踏み込んだ前川君はかわせずに死球。これで無死満塁、そしてバッターは同点タイムリーを放っている四番山下主将…でしたが…、またしても死球。先程の前川君とは異なり、左腕で受ける様な死球。ここは四番として主将として避けて、意地でもバットで勝利を導いてほしかったです…。彼はそれが出来るから男だからこそ、そう思いました。

クリーンアップへの連続死球にて押し出しで同点、変わらず無死満塁で岡島君。ここまでインコースに詰まらされ、持ち味の良いバッティングが出せていませんでしたが、打席に入る前に小坂監督から「ここまでの事は忘れておもいっきり振ってこい!」と言われたそうで、それを体現する打球はどん詰まりながらも振り抜き押し込んだ為に、前進守備だったセカンドの後方へ落ちてサヨナラとなりました。

非常に苦しい試合でした。吉村君の好投と、最後に投手ならではの読みで大きく流れを掴む決定的なホームランを放った代木君。”相撲に勝って勝負に負けた” まさしくこのフレーズが当てはまる明徳義塾ナイン。この試合のMOMを選ぶとすれば智辯からは該当者なしで、先制に繋げる犠打をきっちり決め、9回に一発を放った代木君の受賞が妥当だと考えます。

辞退校について

開会式には参加するも戦わずして甲子園を去った宮崎商業、初出場ながら初戦で名門・愛工大名電に勝利したにも関わらず、クラスターではないものの感染選手の特定や将来的配慮から辞退を申し入れた東北学院、またセンバツ王者で門馬監督最後の戦いでもあった東海大相模、名門・星稜、地方大会のシード校だった福井商や中越など、全国でいくつもの学校・選手・3年生達は敗れることなく夏を終え、3年生は無念の引退となってしまいました。

彼らの気持ちを考えるといたたまれません。本当にコロナウィルスが憎いです。どうか前を向いて進んでほしいとか、これを糧に今後の人生を頑張ってほしいとか、そんな簡単な言葉は言えません。

どうか勝ち残っている4校は、そんな彼の無念を胸に試合を出来る事への感謝を忘れず精一杯戦ってほしいと思います。

ここから以下は、8月29日に追記・更新しました。

準決勝 京都国際戦

両校の先発には智辯・小畠君、京都国際・平野君と、休養日を挟んだとは言え球数・コンディションを考慮し両エースはベンチからのスタートとなりました。

先攻の智辯は3回まで毎回ランナーを出すも後続を打ち取られて無得点。対する京都国際は小畠君を前にノーヒット。

先制点が決勝点となった4表の智辯の攻撃。先頭山下主将が四球、岡島君の犠打、中陳君の死球で1死1・3塁。バッターは植垣君の場面、2ボール1ストライクからの4球目をスクイズにいくも、読まれてウエストされ3塁ランナー死。初回からチャンスをものにできず、ここで致命的な戦略ミスも生まれ、嫌な流れに。その後、植垣君はボールを見極め四球、これで2死1・2塁でバッターは8番ピッチャー小畠君。

ここまで甲子園ではノーヒット、第1打席では併殺に倒れていました。…が、3球続いた高めの後、4球目のインコース高めに浮いたカーブを素直に振り抜いた打球は浜風に押されてレフトフェンスオーバー。スクイズミスを帳消しにする値千金の先制3ランを放ちました。打った本人も驚いた表情を見せ、高校通算は2本目というアーチは決勝弾となりました。

その後は5回からマウンドにあがった京都国際2年生エースの左腕・森下君を前に、智辯打線は森田君の2安打のみに抑えられましたが、自身のホームランで勢い付いた小幡君は京都国際打線を散発3安打に抑えての1失点96球完投。

打って投げてチームを決勝へ導いた活躍は、PL学園・桑田氏以来の出来事らしいです。猛打賞で全5打席出塁の森田君も素晴らかったですが、今日は小畠君の日でした。「誰も期待していなかったと思う」と試合後インタビューにておどけていましたが、小坂監督は「しっかり振り抜いたからこその結果」と称えていました。

一方、5イニングで被安打2・無失点と完璧な投球を見せた京都国際・森下君でしたが、故障の影響で春先まで下半身のトレーニングが出来ずに連戦を投げ切る体力が備わっていなかったとの事です。たしかに、マウンドにあがってから8球連続ボール球で連続四球とはしましたが、ここで対した前川君には低めにきっちり投じて注文通りのゲッツーに打ち取り、続く四番山下主将にはインコースのまっすぐでどん詰まりに仕留め、得点圏を背負ってクリーンアップに対したピッチングは素晴らしいものでした。ソフトバンク和田毅投手にダブって見えるその投球フォームは、来年のリベンジを大いに期待出来る好投手でした。

また、失投1球に泣いた女房役の中川⁽勇⁾君は、冴えわたる組み立てで捕手としての素晴らしい能力を見せ、打っては今大会2ホーマーのパンチ力まで兼ね備えていました。夢の”侍JAPAN入り”に向けて、卒業後も活躍が期待されます。

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決勝 智辯和歌山戦

小坂監督の記録を超えて決勝進出を果たした黄金世代ナイン。その相手は兄弟校である智辯和歌山。合同で行くという修学旅行をはじめ、普段からの交流がある選手の多いという”仲間”同士の対決となりましたが、皆口を揃えて「勝負は別」「必ず相手を倒して優勝する」と両ナインは意気込んでいました。

特に準決勝後のインタビューで勝利の立役者・小畠君は「こちらが本校、負ける訳にはいかない」と話し、更に小坂監督は「成績が上の和歌山とはいつも比べられてきた。肩身が狭い思いもしてきた。明日は絶対に負けられない」と、和歌山出身ながら希望した智辯和歌山には進学できず奈良の智辯学園で選手としても監督としても戦ってきた想いは、選手よりも強いものがあるのでしょう。

ファンからは「ジョックロック対決」「見分けのつかないユニは紅白戦」「40年振り隣県対決の決勝戦」などといろいろな面で注目された智辯対決の決勝戦。試合はいきなり智辯和歌山打線が力を見せ付けました。(以降の決勝記事では、智辯学園を”智辯”、智辯和歌山を”和歌山”と表記します。ご了承くださいm(__)m)

智辯エース西村君の立ち上がり初球を和歌山先頭の宮坂主将はセンターオーバー、サイレンが鳴りやむ前に2塁へ到達した2ベースで幕を開けました。続く大仲君にも連打を浴び、四番徳丸君の犠飛で先制。その後も岡西・渡部・高嶋君らに芯で捉えられ3連打を許し初回4失点。

準々決勝・明徳戦の様ではなくこの日は立ち上がりから制球良く投げていましたが、生命線のアウトコースが決まりません。和歌山打線はスライダーにしろまっすぐにしろしっかり見極めて、少しでも甘く入れば痛打というバッティングに徹していました。

初回の強打から僅かに守備位置を下げた内野陣形を見た大仲君は、2回の第2打席でプッシュバントを見せ内野安打とするなど、強打一辺倒でない攻撃はやりたいようにやられている印象を持たざるを得えませんでした。

反撃に出たい智辯は2裏、先頭山下主将の四球から犠打。フルカウントからファールで粘った植垣君はセカンドが僅かに届く強い当たりでグラブをはじき、その間に山下主将は生還。更に2死から、なかなか甲子園ではヒットが出なかった県予選首位打者の谷口君がここでライトへ痛烈な当たりを放ち植垣君は生還、そして自身もホームへ突っ込んできましたが、セカンド大仲君の素晴らしい中継プレーにて間一髪のアウト。しかし、気迫あふれるアグレッシブな走塁は智辯ナインへ力を与えます。

2・3回は何とか凌いだ西村君。4回には上位打線に対し、ストレート多めの配球で球を走らせて、止めは決め球スローカーブで空振り三振。その裏の攻撃、先頭岡島君がセンター前へクリーンヒット、山下主将は四球、垪和君がきっちり送って1死2・3塁。流れムードもまずまず、ここでランナーを還せれば同点で流れは一気に智辯へ傾かす事ができる場面。

ここで和歌山は、前日124球完投の中西君をマウンドへ送り継投に入りました。この場面でエースはチームを救います。追撃ムードの智辯打線を選球眼の良い植垣君と唯一2年野手でこの夏メンバー入りをしている中陳君を2者連続フォークで空振り三振に抑えてピンチを凌ぎました。

しかし、臆することなく西村君は5回も好投します。ここまで県予選通じて90球を超えると球威・制球力共に落ちる傾向にある中で、93球目からとなるこのイニングにて、クリーンアップに対し4回同様にまっすぐで押して、四番徳丸君の見逃し三振を含むこの試合で初めての三者凡退に打ち取りました。

そして、球数は100球を超えた為、その裏の攻撃で代打を送り降板。6回からは前日完投の小畠君がマウンドへ登りましたが、アンラッキーが襲います。和歌山先頭の高嶋君が放った高いサードフライは風も影響したか山下主将は落球。送りバント失敗と成功の後に宮坂主将はチーム初回以来となる追加点をあげる2ベース。

その裏、智辯先頭岡島君はセカンドへの強い当たりで内野安打。しかし、山下主将は併殺に倒れて、続く7回の攻撃でも先頭中陳君のライト前ヒットも後続が倒れ、ここまで5回の先頭出塁を活かすことが出来ません。中西君はランナーを背負っても要所を締めるピッチングは見事で、決め球フォークでの空振り三振を積み重ねます。この日は不振が理由ではなく攻撃的布陣の意味合いで打順1番に入った前川君が、芯で捉え3本を外野へ放つ猛打賞と一人気を吐きますが打線が噛み合いません。

対して和歌山は、小畠君に対し2巡目を迎え7回2死から連打にて追加点、8回は四番徳丸君に右中間を破られ更に2点追加。6回以降得点を積み重ねて智辯を引き離します。

そして迎えた最終回。9表、和歌山先頭の渡部君がソロ弾で点差は7点まで広がりました。ここまで全試合登板で前日も完投の小畠君は暑さもあって足をつりながらも、なんとか9回を1失点で留めました。

7点を追う智辯最後の攻撃も、ファースト岡西君の好守もあって中西君から最後まで得点をあげることは出来ませんでした。

試合を通じて智辯和歌山は、強打や中西君の好投以上に内野陣の堅守が光りました。鍛え上げられたその守備は、守備範囲が広く送球もブラさない大仲・大西君の二遊間のみならず、捕ってから投げるのが早いサード高嶋君と高い守備力の岡西君も素晴らしいパフォーマンスでした。

もちろん伝統の強力打線は健在で、パワーのみに頼った打撃でなく相手投手を研究し、それを体現するボールをしっかりと見極めたヒッティングは、スコア以上に破壊力が増している印象を受けました。センバツ出場校・市立和歌山のドラフト上位候補であるエース小園君を攻略して、和歌山を制したのも納得できます。

また、初戦が不戦勝となり24日の初戦から僅か6日間で4試合という過去に無い短期間での優勝ではありますが、投手を5名も擁している布陣は通常通りの日程であったとしても疲労や球数制限を苦にすることなく勝ち上がれたでしょう。少なくとも智辯学園を投打共に上回っていた決勝戦での結果は変わらなかったと思います。

智辯和歌山ナイン、優勝おめでとうございます。

一方、惜しくも目指した頂点まではあと一歩及びませんでしたが、ここまで智辯学園は素晴らしい戦いを繰り広げてくれました。

Wエースの西村君と小畠君、タイプは違う二人がそれぞれに持ち味を発揮してチームに勢いをもたらした力投は、互いの応援・サポートがあってこそのものでした。決勝後に涙を流しながら抱き合っていた二人を見て、堅い絆があった事を知ることが出来ました。

覚醒から2ホーマー、また見事なインコースの捌き方で高打率にて打線を牽引した前川君。1年生四番から打順を彷徨った時期もありましたが、見事に最後の舞台で力を発揮し活躍しました。決勝での猛打賞はドラフトへ向けて評価を更に上げたと思われます。

高いミート力は舞台問わず甲子園でも健在だった岡島君。先頭出塁が多くチャンスメイクに徹しましたが、明徳義塾戦でのサヨナラ打は良い意味で”彼らしくない打球”でしたが、センスではなく気持ちで押し込んだ価値ある一打でした。

高いバント技術に確実に打つバスター、また小技のみならず外野へもヒット・長打を飛ばして様々な打順で様々な場面で大きく貢献した森田君。決勝以外は全試合でヒット、即に横浜戦と京都国際戦の猛打賞は素晴らしかったです。

終盤は打撃に苦しむもここまでの貢献度は揺るぎない山下主将。不動の四番サードとして長きに亘ってチームを牽引してきました。前川君の不調時の調整も、山下主将の信頼とチャンスに強いバッティングがあってこそできたものでした。

センバツオーダーから背番号二桁となるも3回戦から持ち前の好打を放ち続けた垪和君。日本航空戦での活躍はなくてはならないものでした。

初戦の上あご骨折で満足に食事も出来ないにも関わらず扇の要としてWエースを支え、またその優れた選球眼とバッティング技術で最後まで戦い抜いた植垣君。

甲子園では県予選の様な打撃が出来ず苦しんだものの、ライトでの好守と精度の高い送球による捕殺で幾度となくチームを救った谷口君。

痛烈な打球を放ってらしさを甲子園でも見せつつスタメン時は全3試合で2出塁と貢献に徹した三垣君。

後半は後輩にポジションを譲るもスタメン時は全3試合で安打を放った竹村君。

黄金世代の戦いぶりは素晴らしく、見事に最後の夏に輝きを放ちました。そして、智辯学園の歴史を塗り替えました。どうか胸を張って奈良へ帰ってきてほしいと思います。

智辯学園ナイン、準優勝おめでとうございます!

この写真はセンバツ・大阪桐蔭戦。初回、桐蔭エース・松浦君 VS 智辯・前川君の場面。ネクストバッターズサークルには四番・山下主将。試合は、”秋季近畿大会決勝”に続いて智辯学園が勝利しました。
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